「広沢くん、いいの?」
ふたりの間で勝手に成立しかけている約束に、躊躇いがちに口を挟む。
「いいですよ。暇なんで」
「でも……」
「おばさんの会社の人は、結構頼りになるんだよ。ね、乃々香ちゃん」
広沢くんが笑いかけると、すっかり彼への警戒を解いた乃々香が声を上げて笑っていた。
広沢くんがまた「おばさん」というところだけ強調したのが気になるけど。
母親が入院していて淋しさを我慢している乃々香が楽しい気持ちになれるのなら、仕方ない。
「じゃぁ、私は乃々香の保護者兼上司として、会社の人がちゃんと仕事してくれるか見守るわ」
「おばさん」を強調した広沢くんへの仕返しのつもりで、言葉に少し嫌味を含ませる。
けれど広沢くんは、そんな私を眩しそうに見上げて笑った。
会社で見せる、部下としての態度とは違う。
何も取り繕っていないように思える自然な彼の笑顔に、一瞬戸惑ってしまう。
無表情で彼を見下ろしていると、隣にいた乃々香が私の服の袖をちょんと引っ張ってきた。
おかげで戸惑いから覚めることができた私を、乃々香が遠慮がちに見上げてくる。



