「さっき礼ちゃんに話そうとしたら、この人とぶつかっちゃったから」
乃々香がそう言って、広沢くんのことを指差す。
「ママは病院だから見にこれないけど、パパは見にくるって約束してくれてるの。病院にいるママのためにビデオ撮ってくれるんだって。だから乃々香、かけっこで1番にになってママをびっくりさせたいなーって思うんだけど……練習では、頑張ってもいっつも3番なんだ」
「そうなんだ。だから、俺に走るの速いか聞いたの?」
乃々香が俯きがちに小さく頷く。
あぁ、そうか。乃々香は……
その反応を見て、私と同じことを思ったのか、広沢くんが乃々香の頭に手をのせた。
「じゃぁ、今から公園で俺と一緒にかけっこの練習する?」
広沢くんが乃々香の頭を撫でながらにっこりと笑いかける。
そんな彼を、乃々香がそっと上目遣いに見つめた。
「いいの?」
「いいよ」
笑顔で答える広沢くんに、乃々香が嬉しそうにはにかむ。
笑い合うふたりを見ていたら、ざわりと心が揺れた。



