「何言ってるのよ。乃々香が初めて会った広沢くんと遊ぶわけないでしょう?」

「乃々香ちゃん、どうする?いつも何して遊んでんの?」

呆れ顔で見下ろす私を無視して、広沢くんは乃々香だけに笑顔を向けて話し続ける。


「お兄さん、かくれんぼで隠れるのうまいし、かけっことか得意だよ?」

最初は広沢くんに不審げな眼差しを向けていた乃々香だけれど、何か彼の言葉が心に引っかかったのか、不意に彼女の目の色が変わった。


「走るの速いの?」

「速いよ。俺、高校生まで毎年リレーの選手に選ばれてたから」

乃々香の興味が自分に向きかけたことに気付いて、広沢くんがちょっと得意げに胸をそらす。


「何?乃々香ちゃん、走るの好きなの?」

「んー、好きではなくて、どっちかというとちょっと苦手」

「そうなんだ?」

首を傾げた広沢くんに、乃々香がこくんと小さく頷いてみせる。


「あのね、実はね。次の次の土曜日に、乃々香学校で運動会があるの」

「そうなの?」
「そうなんだ」

広沢くんの声をかき消すように、私の驚嘆の声が重なる。

小学校のイベントがあったなんて。

そんな話、乃々香からも妹や義弟からも聞いていなかった。