その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「そうですね。乃々香ちゃん、俺は彼氏じゃなくてきみのおばさん(・・・・)の会社の人です」

広沢くんが「おばさん」という単語を強調したのは、私の気のせいではないと思う。

無言で視線を向けると、彼がわざとらしく私から顔を背けた。


「で?広沢くんはここで何をしていたの?」

彼の発言には若干の引っかかりを感じるけれど、ここはこの辺りでは一番大きな総合病院で、用もなくふらっと立ち寄る場所ではない。

週末にここにいるということは、広沢くん自身かもしくは近しい人に何かあったのかなと気になった。


「実は今、父方の祖母が入院してるんです。両親と実家に住んでるんですけど、階段から降りるときに転んで骨折しちゃって」

「大丈夫なの?」

「はい。手術したんですけど、経過は順調みたいで、来週には退院できるらしいです」

「そう。よかったわね。病室には戻らなくていいの?」

「ばぁちゃんの顔見て、ちょうど帰るとこだったんで。まさか、こんなとこで碓氷さんに会えるとは思ってませんでした」

私を見上げてにこりと笑うと、広沢くんが立ち上がった。