「嫌です」
だけど、私の動きは広沢くんに阻止された。
広沢くんの両足と両腕がぎゅっと一気に狭まってきて、彼の内側につかまる。
「ちょっと、離して」
ソファーに座った広沢くんの足の間に収まったまま腕の中に抱きしめられて、その状況にさすがの私も焦った。
強く押し付けられた広沢くんのシャツからは、爽やかな甘い香りがする。
以前も会議室で抱きしめられたことがあったけど、あのときとは広沢くんが纏っている空気が少し違う気がする。
油断したらこのまま飲み込まれてしまいそうな。
そんな気がして、少し怖かった。
「広沢くん、離して」
「嫌です。今離したら、もうこんなふうに碓氷さんに触れられないですもん」
「ふざけないでよ」
怒った声でそう言って、拳で広沢くんの胸を結構本気でパンチする。
だけどそれはあまり効果がなくて、彼に「いてっ」と小さくつぶやかせただけだった。



