その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




大丈夫。体調不良でちょっと調子が狂ってしまっていたけれど、私はちゃんと彼の上司だ。

彼が家にいて、一緒に夕飯を食べるという今の状況はちょっと特殊だけれど。

私がちゃんといつも通りでいれば、場所が社内でなくても問題ない。

広沢くんの不貞腐れた横顔を見ながら口元に余裕の笑みを浮かべると、彼の向かい側の席に座った。


「どうぞ。材料を買ってきてくれたのは広沢くんだから、たくさん食べて」

土鍋の蓋を開けると、熱気とともに白い湯気が私と広沢くんの間に立ち込める。


「いただきます……」

広沢くんが鍋に箸を伸ばすのを確認してから、私は先に自分の缶ビールの蓋を開けた。

鍋の具を取りながら湯気越しに私を見ていた広沢くんが、ふと箸を運ぶ手を止める。


「碓氷さん、病み上がりだけど呑んで平気なんですか?」

「大丈夫よ。もうすっかり元気だし。残ってる菌はビールでアルコール消毒できちゃうから」

「オヤジみたいなこと言いますね」

「だって、部下相手に猫被る意味ないでしょ?」

呆れ顔を浮かべる広沢くんに向かって笑いながら、缶ビールをぐっと喉に流し込む。

私の言葉に、広沢くんが複雑そうに表情を歪めたような気がする。

だけど私は、彼の顔が鍋に立ち込める湯気のせいで見えないフリをした。