「はい。どうぞ」
取ってきた缶ビールを一本、広沢くんの前に出すと、彼が私を見上げて瞬きをした。
「いいんですか?」
「どうぞ。まぁ、結果的にいろいろお世話になったから」
広沢くんが昨日押しかけてこなかったら、私は今日も無理して出勤していたと思う。
早く体調を回復できたのは、彼のおせっかいのおかげとも言えなくない。
「グラスいる?」
自分のビールをテーブルに置いて、キッチンにもう一度戻ろうとすると、広沢くんが腕をつかんで引き止めてきた。
「そうじゃなくて。碓氷さん、家に来た男に簡単に酒なんて出していいんですか?酔っ払って、過ちを起こしちゃうかもですよ?」
広沢くんが私の腕をつかんだままニヤリと笑う。
からかっているのか動揺させようと思っているのかわからないけれど、私だってそう何度も年下の部下に振り回されたりなんかしない。
「何言ってるの。私が部下相手にお酒で流されるわけないじゃない。それに、出すのはビール一缶だけよ。この前の飲み会の感じだと、広沢くんはそんなにお酒弱くないでしょ」
冷静な目で広沢くんを見下ろして、彼の手を振り払う。
「それより、グラスは?いる、いらない?」
「いりません」
私の気のない反応に、広沢くんが不満気に顔をそらした。



