その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



最近は料理できる男の子も多いみたいだからもしかしてと思ったけれど。

鍋の材料を大量に買い込んできた割にはできないのね。


「高校時代の調理実習って……」

不安な面持ちで見ていたら、広沢くんがスーパーの袋から取り出したまだ洗っていない白菜をまるごと一玉まな板にのせて、握った包丁を振り上げた。


「え、あ、ちょっと待って……」

咄嗟に声をかけると、広沢くんが動きを止めて振り返る。


「何ですか?」

「それ、私が替わるわ」

「大丈夫ですよ。碓氷さんは休んでてもらえば」

「平気よ。もうすっかり体調もいいし」

「遠慮しなくていいですよ?」


広沢くんの隣に立って包丁をつかむ彼の手首をそっと押さえる。


「遠慮じゃなくて配慮してるのよ。指でも切られたら困るでしょ」

冷静な目で広沢くんを見ながら口元にだけ薄っすらと笑みを浮かべると、しばらくして彼がおとなしくキッチンを明け渡してくれた。


「じゃぁ、おとなしく待ってます。俺としても碓氷さんの手料理食べられるほうが嬉しいんで」

「鍋なんて野菜切って炊くだけなんだから、手料理のうちに入らないでしょう。できたら呼ぶからあっち行って」

キッチンから広沢くんを追い払うと、私は手早く材料を切って鍋の準備をした。