その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



戸惑いの表情を浮かべる私に、広沢くんがにこりと笑いかけてくる。


「用意するんで、キッチン借りますね」

一瞬できた隙をついて私の手を離すと、広沢くんは遠慮なく人の部屋に上がり込んでいった。


「あ、ちょっと……」

何なの、もう……

会社でここまで部下相手に振り回されることなんてないのに。

場所が違うからか、病み上がりだからなのか。

広沢くん相手に調子が狂う。


遅れて追いかけると、広沢くんはもう既にキッチンいて、調理器具を出してカタカタと何かやり始めていた。


「碓氷さん、まな板ってどこですか?」

勝手に包丁だけは見つけ出したらしい広沢くんが、それを片手に私を振り返っていて、なんだか危なっかしい。


「そこだけど……広沢くん、料理するの?」

広沢くんの足元の引き戸からまな板を取り出してキッチン台に置くと、彼が自信満々に笑った。


「実家出るときに一応一人暮らしに事足りるくらいの調理器具は準備したんですけど、自分では全然作りません。高校時代の調理実習でちょっと野菜切ったくらいですかね」