その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



玄関のドアを開けるために、広沢くんの横を無言ですり抜ける。

ドアノブに手をかけたとき、広沢くんが私の横から腕を伸ばしてドアにロックをかけた。


「何?」

やろうとしたことを邪魔されて、つい苛立ちが声に出る。


「碓氷さん、なに怒ってるんですか?」

「怒ってなんかいないけど」

「でも、眉間寄ってますよ?」

「だいたいいつも寄ってるわ」

「そうですか?俺が秦野のこと気にかけてすぎたから、妬いてるのかと思いました」

広沢くんが、横から私の顔を覗き込むように首をかしげる。


「言っている意味がさっぱりわからないんだけど」

「それは残念です」

目が合うと、広沢くんがわざとらしいくらいに、にこりと笑いかけてきた。


「もういいわ。用がないなら本当に早く帰りなさい」

かけられたドアロックを外そうとする私の手に、広沢くんの手が重なる。


「用ならありますよ。最初に言ったじゃないですか。一緒に鍋しましょう、って」

「それはあなたが勝手に……」

反論しようとしたら、広沢くんが重ねた手を一度ぎゅっと握った。