その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



冷たい視線を投げかけたら、広沢くんが私のほうにすっと身を乗り出してきた。


「俺が今日も来た理由には、碓氷さんのほうに心当たりがあるはずですけど?」

急に近くなった距離に、驚いて後ずさる。

私に心当たりがあるって、どういうこと?


「心当たりなんて全くないわよ。午後からは調子が戻ってきて仕事もできたし。部署の人から仕事関連のメールもたくさん届いていたから、みんな私の体調が良くなってることは知ってたんでしょ?」

「そうですね。『碓氷さん、意外と元気そうだから、ちょっとくらいなら仕事メールをしても大丈夫だ』って誰か言い出して。そっからはもう、ほとんどの人が碓氷さんが会社休んでる理由なんて忘れちゃってましたよ」

私にそう話す広沢くんの表情が、どこか不満げだ。


「だったら何も問題ないじゃない。今日はもういいから、早く家に帰りなさい」

会社で部下を業務に促すような口調でそう言ったら、広沢くんが私をジッと睨むように見てきた。


「俺、言いましたよね。心当たりは碓氷さんのほうにあるって」

「心当たりなんてないってば」