その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



「どうしてまた今日も来たの?それに、いったいどうやって私の部屋の前まで上がってきたのよ」

オートロックの外側のインターホンだったら、適当にあしらって追い返すことだってできたのに。

恨めしい気持ちで見上げると、広沢くんがにこりと笑った。


「あぁ、それはですね。ちょうどマンションに着いて外側のインターホンを鳴らそうとしたときに、保育園帰りの子どもを連れたお母さんが通りかかったんですよ。『彼女が体調不良で寝込んでるので様子見に来たんです』って言ったら、快く一緒に中に入れてくれました」

「はぁ?」

たとえ笑顔で情に訴えられたとしても、住人以外の人を気安く通しちゃったらオートロックの意味がないでしょ。

広沢くんは見た目の良い好青年だから騙されちゃったのかもしれないけど、いい人そうに見えて悪い人だっているんだから。

見ず知らずのお母さんに心の中で強く訴えかける。


現に、広沢くんの話はほとんど嘘だ。

私は彼の彼女じゃない。