晴れ所により雷雨、所により告白【続編完結】

お水とおしぼりを持ってきてくれた女将さんに、課長が聞いた。

「今日の日替わりって何?」

「今日は、カワハギの煮付けよ。」

「じゃあ、俺はそれ。
 晶は? どうする?」

「じゃあ、私も。」

なんだか、まだ、名前を呼ばれるたびにドキドキして、そわそわと落ち着かない気分になる。

なんでかな?

5年間、ずっと立川さんって呼ばれ続けてたからかなぁ。


程なく運ばれてきた日替わり定食は、品数が多くて驚いた。

煮魚の他に、雑穀米、けんちん汁、煮物やおひたしの小鉢が四つ。

それで終わりだと思ったら、デザートにきな粉のババロアまで出てきた。

どれも優しい味で、すごくおいしい。

特にカワハギの煮付けは、絶品だった。

「課長、これ、すっごくおいしいですね。」

「だろ?
 ここはハズレがないから、よく来るんだ。」

課長はあっという間に完食して、こちらを見ている。

どうしよう。

見られながら食べるのって、なんだか恥ずかしい。

だけど、課長は視線を逸らす気配は全くない。

私は、見ないでとも言えず、無駄にドキドキしながら、食事を終えた。


お会計の時、私は自分の分は自分で払おうとしたけど、課長が先に全部払ってしまった。

いや、絶対、ここ安くないし。

そう思って、

「じゃあ、千円だけでも。」

と千円札を一枚取り出したのに、

「んー、じゃあ、こうしよう!
 給料が多い方がデート代を払う。
 晶の給料が俺より多くなったら、奢って
 もらうから。」

と言われてしまった。

「ええ!?
 そんなの一生来ないじゃないですか。」

私が口を尖らせると、

「いや、俺が定年退職したら、晶の方が多く
 なるかもしれない。」

と笑う。

「って、何年先ですか!?」

「さぁ、25年? いや、去年、定年が65歳に
 延長されたから、30年かな。」

そう言って課長は、とても楽しそうに笑うけど、それって、定年退職の時も一緒にいるってことだよね?

そっか…

結婚を前提ってことは、この先ずっと、それこそ、定年を過ぎておじいちゃんやおばあちゃんになるまで一緒にいるってことなんだ…

そう思うと、それ以上払うとも言えなくなってしまい、私は、

「ごちそうさまでした。」

と千円札を財布にしまった。