「いらっしゃいませ。」

優しい声に迎えられて、店内に足を踏み入れる。

広くはない店内。

カウンター席が10席くらいと、四人掛けのテーブル席が二つ。

カウンター内には、おそらく五十代くらいだと思われる女性。

「あら、(りゅう)ちゃん、今日は2人?
 珍しいわね。」

「こんにちは。
 テーブルいい?」

課長は慣れた様子で女将さんと会話する。

課長、龍ちゃんって呼ばれてるんだ…

「あら、紹介してくれないの?」

そう言われて、課長は照れたように私を見た。

「立川晶さん。
 俺の部下で… 彼女。」

恥ずかしそうに頬を染める課長は、やっぱり会社では見られないかわいい課長で…

私の胸の奥で、何かがキュンと音を立てた。

なんでだろう。

ついこの間まで、課長はただの課長でしかなかったはずなのに。

いつのまに、私はこの人のことをこんなに好きになったんだろう。


私は、そんなことを思いながら、女将さんにぺこりと頭を下げた。

「あら、龍ちゃん、いつのまに。
 おめでとう。良かったわね。
 晶ちゃん、ゆっくりしていってね。」

私は課長に促されて、テーブル席に座る。

向かいに座った課長が、壁に掛けられた黒板を眺めているので、私も視線を向ける。

今日のおすすめなのかな?

いくつかのメニューが書かれていた。