「立川さん、聞いていい?」

「はい。」

「一身上の都合って、結婚?」

意外な質問に、私は思わず顔をブンブンと横に振った。

「違います。」

「……よかった。
立川さん、長く付き合ってる彼が
いたでしょ?
だから、もしかして結婚かな…と思って。」

微笑んだ課長の笑顔がなんだか寂しそうで、気になった。

「……逆なんです。
失恋したんです。相手が社内にいるから、
逃げ出そうとして……
でも、そんな理由で簡単に辞めちゃ
ダメですよね。
あの時、止めてくださって、
ありがとうございました。」

私は頭を下げた。

「じゃあっ!」

と課長はゴミを掴んでいる私の手を握った。

「俺と…
俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」

「えっ?」

驚いた私がその場で固まると、課長は慌てて私の手を離した。

「あ、いや、その、ごめん。
ゴミを拾いながら言う話じゃなかった。」

そう言って、恥ずかしそうに頭を掻く課長がなんだかかわいくて、自然にくすくすと笑みがこぼれた。

「ふふっ
そんな事を言うと、
本気にしちゃいますよ?」

笑い続ける私を見て、課長は憮然として言った。

「本気だから。
言うタイミングは間違ったけど、
言った内容は間違ってないから。
俺は、ずっと立川さんの事が好きだった。
いい歳してって思うかもしれないけど、
ずっと立川さんに片思いしてたんだ。
もし、立川さんが嫌じゃなければ……って、
こんな部屋見た後じゃ、嫌だよな。」

最後にシュンとうなだれる課長がやっぱりかわいくて…

「とりあえず、お掃除係でもいいですか?」

私がそう言うと、課長は驚いたように目を見開いた。

「それって… 」

「結婚を前提として…
週末にお掃除に来てもいいですか?」

「っ!!
もちろんっ!!」

課長は嬉しそうにゴミを掴んだままの私を抱き寄せた。