課長に続いて、設置された非常用梯子を下り、線路内に入るが、敷石にヒールを取られて歩きにくい。

だけど、傘を差した課長が、しっかりと肩を抱いてくれて、転びそうな時も支えてくれた。

智也といた時には感じたことのない安心感。

同い年の智也は、元気が良くて少し子供っぽかったから、私が智也を支えていた気がする。

こんな風に支えてもらうと、大切にされてるような守られてるような錯覚に陥りそうになる。

課長はただの上司なのに。


駅に着くと、タクシー乗り場はすでに長蛇の列だった。

「立川さん、車で送るから、
うちまで歩ける?」

「えっ?
いえ、そこまでしていただかなくても。
並んでタクシーに乗りますから大丈夫です。
今日はいろいろとありがとう
ございました。」

私はお礼を言って頭を下げる。

「こんな所に立川さんをおいて帰ったら、俺が
心配で仕方ない。
お願いだから、素直に送られて?」

ずるい。
そんな風に上司に下から言われたら、断れないよ。

「じゃあ、すみません。お願いします。」

結局、私はまた課長に肩を抱かれて寄り添って歩く。

ずっとぎこちなかった私だけど、なんだか課長と歩くことに少し慣れてきた気もする。

10分程で課長のマンションに着いた。

「着替えて鍵を取ってくるから、部屋で
待ってて。」

課長はそう言うが、私は、男の人の部屋に入ることに、少々のためらいがあり、

「いえ、ここで待ってるので、ゆっくり
温まってきてください。」

と玄関先で待つことを提案した。

「いや、7月に入ったとはいえ、今日は
冷えるし、雨にも濡れてるだろ。
ほいほいと誘われるままに男の部屋に
入らないのは懸命だと思うが、俺は誓って
何もしないから、心配せずに中で待ってて
くれないか。」

確かにいつも優しい課長が何かするとは思えないし、これ以上固辞するのは、疑ってますと言うようなもので、なんだか気が引ける。

「では、少しだけお邪魔します。」

私はおずおずと部屋に足を踏み入れた。