その日は不知夜月だった。
普段、夜空などに興味を示さない彼は、
その日だけ不知夜月を親の仇のように眺めていた。
彼の胸の内は傍観者である私には分かるはずもない。
が、なんとなくぼんやりとは伝わってきた。
何かを決心したということだけ。
そして、皆が寝静まった夜の中、
お金も携帯も着替えも持たずに、
「己が身だけは置いて行けない。」
とだけ言い、月で明るい夜に出ていった。