はじまりは、我が国の国境に近い隣国の村で発生した流行病だった。
 発症当初はただの風邪のようにしか見えないのだが、段々と悪化するにつれて身体を壊していくとても恐ろしいもの。


 それは、行商人を伝って我が国へと入り込み、国境付近の街からどんどん王都内へ広がっていった。国中で数千人もの人が罹って亡くなっていった。何人もの貴族も同じ道を辿り、それは私にも手を伸ばしてきたのである。


 普段滅多に動揺も慌てもしないクリストフォロス様が、その日はとても焦った顔をして、私の部屋にいきなり入ってきたのだ。
 私はまだ支度が済んでいなくて、侍女に髪を結ってもらっていた最中だったが、そんな事はお構い無しにクリストフォロス様は言った。


「エレオノラ大変だ……!一昨日謁見に来た貴族がいただろう?」

「ええ、確か流行病でお医者様がお亡くなりになられて、治療する方が足りないとの事でしたね」

「ああ。その者が件(くだん)の流行病に罹ったそうだ」

「まあ……!」