ーーなんていう古いおとぎ話が広く伝わっている。
もう遠い昔に歴史から消えてしまった国。現在、色々な人がこの国の存在は本当だったのか、それとも嘘だったのかと議論を交わしているらしい。このおとぎ話にしか存在していない国だからだ。
私にとっては、とても懐かしい国名だ。分厚い本に印字されているその名前をなぞって私は微笑んだ。
ポツリ、と一粒涙が零れ落ちる。本の表紙の色が滲む。
都合の良い〝魔女〟だなんてものは存在しない。沢山の側室だっていなかった。
この本に書かれた事は、ほとんど嘘だ。
おとぎ話の王妃様は救われること無かった。
私達の恋は誰も幸せにせずに儚く散った。
愛なんて、我慢するものだった。
アルガイオという一つの国の為に、夫であったクリストフォロス様と私は共に生きて死んでいったのだ。