ファウスト様に手を引かれて、窓から外に出る。
 この王国で指折りに数えられるアウレリウス公爵家の敷地内だけあって、庭までランプが置いてあった。足元までうっすらだけれど、見える。


 だけれど、急に立ち止まったファウスト様の背中にぶつかりそうになった。


「ーー行かせませんよ」


 凍えるような冷たい声が私達を阻む。フォティオスお兄様を背負っていたはずの、ラウルと呼ばれた人も足を止めていた。


「……アウレリウス、公爵」


 急いで来たのか、いつも後ろに流している金髪は乱れている。切れ長の紅色の瞳が私を睥睨した。


 その視線から、ファウスト様は隠すように立ちふさがる。


「アウレリウス公爵。ーーいや、ペルディッカスと呼んだ方がいいのか?」


 ファウスト様の硬い声に、アウレリウス公爵は感動したようにひざまずく。


 その光景は、その表情は、とても異様だった。


「ああ……!ご無事でいらっしゃると信じておりました……!ファウスト殿下は王になるべくして産まれた御方。また貴方様が王子としてお産まれになった時、私は天に感謝したのです。

 ーー次こそは、貴方を絶対的な王にしようと」


 忠誠にしては重く、盲信にしては足りない。
 ファウスト様に忠誠するようでいて、ファウスト様の意向は全く聞いていない。


 自分の理想を実現させたいだけの、愚か者がそこにはいた。