「……っ、そんな政治で上手くいくはずがない。国が傾きだした頃、クリストフォロスはペルディッカスを道連れにした。最終的には、他国に侵略される形で、アルガイオの歴史は幕を閉じた」

「……フォティオスお兄様」

「もし、だ。もし、ペルディッカスがクリストフォロスが亡くなったのは、エレオノラを失ったせいだと思っていて、……この時代に生まれ変わったらどう思う?」


 言葉が出なかった。
 私クラリーチェがエレオノラだと気付いた時から、ファウスト様から距離を離すに決まっている。何故なら私エレオノラは、クリストフォロス様の弱味でもあったからだった。


 私の味方であるべき筈のアウレリウス公爵が、その理由で私を軟禁していたのならば納得がいく。


「フォティオスお兄様の仰る通りです。ペルディッカスの生まれ変わりがアウレリウス公爵で、テレンティア様の生まれ変わりが、私の侍女のビアンカだったんです」

「あの、侍女が?」


 どうやらサヴェリオ様フォティオスお兄様はビアンカの事を知っていたらしい。頷くと、そうか……、と気が緩んだように目を閉ざす。


 慌てて名前を呼ぼうとした時、ふと私の髪が揺れる。室内に一陣の夜風が吹き込んできた。



「ーーそうか、それは僕も知らなかった」



 その声音に、どうしようもなく安堵した。
 愛が決して綺麗事だけでない事も、自分を醜くする事も教えてくれた人がそこに立っていたから。