私が眉を寄せた所で、彼は一歩も引こうとはしなかった。それどころか、少し興奮した事で症状が悪化しているように見受けられる。瞳の碧が、どこか遠くを見るようなものに変わる。


「……エレオノラの後を追うように、クリストフォロスの心は死んだ。……その後のアルガイオは、悲惨だった」

「フォティオスお兄様?」

「クリストフォロスの代理を決める為に貴族議会は争いで荒れに荒れた」


 やはり助けを呼びましょう?と声を掛けるが、彼は首を横に振るだけだった。そればかりか、熱に浮かされたように前世過去の話を続ける。


「……蹴落とし合いだった。何人もの人間が失脚した。最終的にクリストフォロスとテレンティア様の婚姻を漕ぎ着けた、ペルディッカスが政治の舵を取った」


 ビアンカも、ファウスト様も教えてくれなかった、アルガイオの詳しい末路。


「びっくりする位……、ペルディッカスはクリストフォロスを真似た政治を行っていた。クリストフォロスの心が生きていた時代と違い、……国内が権力争いで疲弊しているのにも関わらず、何かの幻影に取り憑かれたかのように」


 フォティオスお兄様は一度、深く息を吐き出した。身体はキツい筈なのに、鬼気として語り続ける。