愛を捧ぐフール【完】

 そこではじめてセウェルス伯爵を見た。
 彼は私の方ではなく、ぼんやりと月の出ている空を見上げていた。時々雲が月を隠して、月明かりが弱くなる。


 そこには小太りで、いつも穏やかそうな笑みを浮かべているセウェルス伯爵はどこにもいない。無表情で、冷たい印象を受ける。


「それはね。王族も貴族もみんな見栄っ張りだからだよ」


 クルリと私の方を向き、セウェルス伯爵は私を憐れみを込めた瞳で見つめた。どうしようもない子供を見るかのようでいて、その子供を可哀想だと思っているかのような。


「クラリーチェ。王族と貴族は見栄っ張りであると同時に、国民を安心させなければならないんだよ。だから、情報操作だってするし、いつも通りにパーティーだって開く」


 そしてね、とセウェルス伯爵は言葉を続けた。


「有りもしない既成事実だって、でっち上げる事だってするんだよ」


 言い終わるか終わらないかのうちに、セウェルス伯爵は私の腕を力強く掴む。あまりの力の強さに顔を歪めた。


 抵抗する間なんて、なかった。