私を先導する侍女と違い、私の後ろをぴったりと音もなくビアンカは着いてくる。邸の玄関ホールらしきところを抜け、外に出ると一面森に囲まれていた。


 錆び付いた鉄の門の外には、馬車と共に小太りのセウェルス伯爵が待機している。


 門から延びる少し荒れた道以外、この邸がどこに建っているのかすらも全く分からない有様だった。


 これでは邸から抜け出せていたとしても、森で迷って野垂れ死にしていただろう。自分の浅はかさと共に、どうしようもなく無力だと痛感した。


 この手は王太子妃であった頃から荒れを知らない。
 この足はあまり地面を踏んだ事がない。
 この身は一人で外に出たことはない。


 前世と同じだ。私は何も知らない。


 セウェルス伯爵にエスコートされ、乗った馬車にはビアンカも一緒だった。まだ婚約者同士なので、侍女も乗るのはよくある話。
 だけれど今回は出発した場所が場所だったのか、誰も何も口を開かなかった。


 ビアンカは相変わらず無表情で空気のようだったし、セウェルス伯爵は何を考えているのか全く分からない。いつものおおらかな笑みすら浮かべなかった。