「ああ、いえ。あの、これは……」

「妙な気を起こさないで下さいと申し上げましたよね?」

「……ええ」


 語尾が萎んでいくような頷き方だった。大方、どうにかして脱出しようとしていたのだろう。彼女の肩をそっと押して室内に戻す。


「この邸がどこにあるのかも分からずに無謀な事をなさいますね。貴族のご令嬢は一人で外にすら出た事がないのに」


 クラリーチェ様は苦虫を噛み潰したような表情でわたくしを見ていた。痛いところを突いている自覚はある。彼女も充分に分かっているのだろう。


「それでも……、私が結婚する前に伝えたいのよ。どうしても」


 前世も今世も運命が二人を引き裂いている。


 だけれど、醜く足掻き続ける彼女の姿を、わたくしは酷く愚かに見えた。