しっかりと頷いたセウェルス伯爵を見て、アウレリウス公爵はようやく表情を緩めた。セウェルス伯爵もそれに少しだけ胸を撫で下ろしたようだった。


 公爵を怒らせるのは、伯爵にとっても不本意なのだろうと思う。


「では、パーティーの際にまたクラリーチェ嬢を迎えに来ます」


 そう言い残して、セウェルス伯爵は帰って行った。


 アウレリウス公爵は知らない。


 セウェルス伯爵が変な気を起こさなくとも、ファウスト殿下とクラリーチェ様は隠れて会っている事を。
 もう既にアウレリウス公爵の恐れている事は現実になっている事を。


 ずっとわたくしは見てきた。


 でもわたくしは言わない。言う義理はない。言う必要もない。


 この先ファウスト殿下とクラリーチェ様の恋が成就しても、しなくても、静観し続けるだろう。


 何故ならもう、わたくしに前世は必要ない。
 クリストフォロス様が壊れてしまった時、わたくしの恋心も壊れてしまった。もうその時点で、彼に固執はしていない。


 わたくしにとって、前世に囚われ続けるファウスト殿下とクラリーチェ様が理解出来なかった。自由や幸せ、地位を捨ててまで、恋愛という感情を優先させるものなのかと。


 アウレリウス公爵だってそうだ。取り戻せない前世(かこ)を今世(みらい)で実現しようとしている。