ビアンカは黙り込む。
 ずっとずっと羨ましかった。クリストフォロス様の子供を産める身体をした彼女が、私が失ったものを持った彼女が。


「私達、共感する部分はあっても、きっと分かり合えはしないと思うわ」

「ええ。クリストフォロス様を愛して、それでも愛されなくて諦めてしまったわたくしには、今世でも苦労してまでクリストフォロス様を愛し続けるエレオノラ様が分かりませんわ」

「そうね。きっと、私がクリストフォロス様を貴女に支えて欲しいといった気持ちも分からないでしょう、テレンティア様」


 クリストフォロス様に愛された私には、テレンティア様の失恋は分からないし、テレンティア様ならクリストフォロス様を支えられるだろうと思っていた私の期待が裏切られていた事も、彼女はきっと分からない。


「愛を貫く事が美徳だとはわたくしは思いません」

「ええ。それは私も思います」


だってほら、嫉妬して、他人までも不幸にして、自分勝手で、疲れてしまって、悲しい事ばっかりだ。
それでも好きな人と一緒にいる時が一番幸せだと思ってしまう。それはまるで麻薬だ。


 ビアンカはしばらく沈黙していたが、やがて緊張を解すかのように細長く息を吐いた。
 ビアンカの瞳にはもう薄暗い炎は宿っていない。いつもの無機質な瞳だった。


「どちらにせよ、貴女はセウェルス伯爵に嫁がれる身。妙な気は起こさないで下さいね」