「思い出して下さって何よりです。エレオノラ様」

「そんな……いつから?」

「貴女と初めて会った時からですよ。エレオノラ様」


 唇に弧を描いたビアンカは、ゆっくりと私の前に来て視線を合わせる。
 いつもの無機質な瞳じゃない。薄暗い光の中に、隠しきれない高揚が浮かんでいた。


「エレオノラ様はお若くして亡くなられました。クリストフォロス陛下は、それはそれは大層悲しまれておいででした」

「……っ」


 クリストフォロス様が悲しんでいたであろうことは分かっていた。それでも、過去を生きていた人からそれを聞かされるのは胸が痛む。


「わたくし、エレオノラ様がお亡くなりになられた後、子供を産んだんです。可愛い可愛いクリストフォロス様にそっくりな男の子。世継ぎですよ?」


 私が死ぬ前にテレンティア様は懐妊していた。
 そうか。あの時の子供は、男の子だったのか。