「あの方だけではありません。私は、……私(わたくし)は、貴女もお恨みしています」

「なん……で?」


 掠れた声が出る。いつもの無機質なビアンカの栗色の瞳には、はっきりと薄暗い灯火(ともしび)が宿っていた。


「どんなに私があの方を愛していても、あの方は私を見て下さる事は一度もなかったのです。あの方の視線の先にはいつも貴女がいて、貴女と幸せそうにあの方は微笑んでいました」

「え……私……?」

「ええ。私は、貴女の代わりにすらなれなかったのです。ーーエレオノラ様」


 私の中で崩れ落ちてしまった過去の歯車の一部が、音を立てて蘇る。


 政略結婚、彼女の実家への援助、エレオノラ私、クリストフォロス様。


 そうだ。なんで思い当たらなかったのだろう。〝彼女〟もこの時代に生まれている可能性があったのに。


 クリストフォロス様、エレオノラ、フォティオスお兄様、イオアンナ。そして、


「テレンティア……様?」


 かつて同じ夫を持った女性が、初めて今世の私の前で少女らしく微笑んだ。