「私も……政略結婚だったのです」

「え?ビアンカ貴女……結婚していたの?」


 私が目を瞬くと、ビアンカは沈黙したままジッと私を見た。そして、数秒の後のちに再び口を開く。


「会った事の無い男性でした。顔は似顔絵で……、とても素敵でまるで物語の王子様のようなお姿でした。性格もとても穏やかで、非常に優秀なお方だと噂で伝え聞いておりました」


 そんな方と結婚出来るなんて、羨ましいわーーと普通の貴族の令嬢なら言ったであろう。私もそうしようとした。


 でも、何故だか喉の奥に引っかかるというか、この異様なビアンカの雰囲気を感じて言葉に詰まった。


「損得の絡んだ政略的な結婚でしたが、会うととても素敵な方で、新しい環境に慣れない私に対しても優しいお方でした。そして、私の実家も助けてくれたのです。本当にあの方には感謝していると同時に


 ーー私はあの方を恨んでいるのです」


 一気に室内の温度が下がった気がした。


 ビアンカは一体、何を言っているの?


 まずビアンカは私とそう年の変わらない侍女で、ずっとレオーネ男爵家に仕えていて……いつ、結婚していた?