少し前の自分なら、むしろ歓迎していただろう。
 これでやっとファウスト様を解放できると。


 でも、今の私には、とても出来そうになかった。


 せめてファウスト様にもう一度、私の昔から変わらない嘘偽りのない気持ちを伝えたい。いつも誰かに見つかるんじゃないかって恐れていた後の事なんて、全く考えてない。


 それでも彼と幸せになりたいという願いを、彼に伝えたかった。


 この私の言葉で、ケジメを付けたかった。


 そうじゃないと、取り返しのつかない気がして。


「……クラリーチェ様は政略結婚がお嫌ですか?」


 初めてだった。私の言葉に疑問を投げかけることはあっても、ビアンカから聞いてくることは初めてだ。


「……いいえ、そんなことは」


 ーーない、と言いかけて、言葉につまる。


 ほら、私、前世でも政略結婚だったでしょう。貴族の娘は政略結婚が基本だったのだから。


 そう納得しようとして、私とクリストフォロス様は政略結婚だったけれど、ちゃんと恋愛してからの結婚だった。