「どうだったー?上手くいった?」


 自室に戻ると、そこは女の香水のような甘ったるい匂いで満ちていた。僕よりも少し年上の銀髪の青年が、行儀悪くソファで寝そべって果物を丸かじりしている。服をだらしなく着ていたが、それも婀娜(あだ)っぽく感じる。


 髪と同色の瞳には抑えきれない喜色が浮かんでいた。


「銀色の髪に紅色の瞳だったよ……。上手くいった」

「やったね!オレも仕事とは言えさ、いい思いさせてもらったよ。女抱くのは元々仕事だったけど、美味いもん沢山食べれるし、何より報酬が美味いからな」


 僕とエレオノラの色を持った子供を探していた過程で、見つけた男娼だった。僕とどことなく似ていたし、銀髪の人間は少なかったから、どこかで利用出来るのではないかと思っていた。


 まさか、隣国の元王女に宛てがうとは思っていなかったが。


「しっかし、お前も若いのに苦労してんなー。あんまり痩せすぎるとバレるぞ?」


 トン、と彼は人差し指で僕の胸をつく。軽い衝撃だったけれど、僕はよろめきそうになった。


 誰も思わないだろう。生まれたばかりの世継ぎが国王の血を全く引いていない事を。
 誰も思わないだろう。僕が道を踏み外し続けている事を。


 胸に大きな風穴だけが、塞がることなくそのまま残っていた。