身重だった隣国の王女が出産した、という知らせは執務室で聞いた。産気づいたという知らせも執務室で。


 酷い父親だ。自分の子供が産まれるというのに、冷静なのだから。


 相手がエレオノラだったらどうだっただろうか。きっと執務なんか放り出して、入れもしないエレオノラの部屋の前で彷徨いていたかもしれない。きっとそうだ。廊下なんか走っていただろう。


 エレオノラは華奢で女性らしいというより、まだ少女のような感じだから無事かどうか不安だ。出産には母子ともに負担が掛かるから。


 エレオノラに似た女の子だったら、きっと可愛くて可愛くて仕方ないのだろう。とても甘やかしてしまう自信がある。


 いや、きっと、エレオノラとの子供だったら、可愛くて可愛くて仕方ない筈だ。


 何度も何度も夢見てきたから。


 部屋に通されると、生まれたばかりの赤子を抱いた寝台に横たわる母親の姿が目に入る。
 近づくと彼女は幸せそうに微笑んで、赤子を見せてきた。


「陛下に似た男の子でございます」


 手を伸ばすと、母親は僕に赤子を渡す。
 近くの侍女が手を貸してくれて、ようやく小さな命を腕の中におさめた。

 薄らと生える髪は銀色。腫れぼったいまぶたを薄く開けた下には、紅色の瞳。