腕の中に抱きとめた彼女が弱々しく微笑みながら、徐々に瞳を閉じていく。僕が握り締めた手が滑るようにして、寝台へと落ちる。


「エレオノラ……!起きて、お願いだから……、お願いだから、僕を……」


 ーー置いて行かないで。


 ずっとずっと、予感はしていた。覚悟だってしていた。でも、そんなの〝つもり〟でしかなかった。


 これから先、長い時間を共に歩む予定だった。
 2人の子供を2人で愛情を掛けて育てて、普通の家族みたいな幸せを掴もうって決めていた。


 ねぇ、君がどんどん痩せ細っていく姿を見て、僕はずっと健康であるはずの自分も胸に風穴が空いていくような感覚だったよ。


「誰かいないか!宮殿医を呼べ!!」


 声を張り上げて侍女に命令を下す。完全に意識の失ったエレオノラをそっと離して、寝台へ寝かせた。
 慌ててやってきた宮殿医は、エレオノラを診て表情を固くする。


 宮殿医だけじゃない。その場にいる全員が、もうエレオノラが長くない事を知っていた。