社交界に出るにあたり、お父様は私に何着かの新しいドレスと宝石を買い与えてくれた。本当は成人と同時に嫁がせて、買う予定など無かったのだろう。


 渋い顔をしていたお父様は、間違いなく外聞を気にし、要らないところは徹底的に削除しようとする精神ゆえに資産家として成功し続けている。


 つまりはケチなのだ。


 いつも私に付き従っているビアンカは仮面を貼り付けたかのように表情を動かさず、私の支度を整える。


 今の流行がどんなものかは分からないけれど、体裁を気にするお父様が満足そうに頷いたのでそこまでズレてはいないのだろう。


「いいかクラリーチェ。くれぐれもセウェルス伯爵に迷惑と失礼をかけるんじゃないぞ」

「はい。未来の旦那様ですもの。勿論です」


 古くからある裕福な伯爵家の馬車が私を迎えに男爵家に来る前まで、口酸っぱくお父様は私に同じ事を忠告していた。


 セウェルス伯爵に迷惑を掛けるだなんてとんでもない。


 初めての社交界という事で開催されるデビュタントとはまた違う。
 一応レオーネ男爵家に認知はされているが、正妻の子供ではない。


 普通の貴族令嬢ならデビュタントをしてから社交界に入るが、私は本来なら堂々と社交界に出入りは出来ない身分だ。