愛を捧ぐフール【完】

 丸い身体で会場を動き回るセウェルス伯爵の後ろ姿を見送り、私は外に出るために会場を後にする。


 整備された貴族の敷地内の庭とはいえ、夜に暗がりに連れ込むお酒に酔った不埒者がいないとは限らない。私は見晴らしのいい、パーティーの行われている会場から近い所に設置されたベンチに腰掛けた。


 夜空には、前の生(せい)で見た時と寸分違わない星と月が浮かんでいた。

 クリストフォロス様は私の全てだった。
 お父様も、お母様も、お兄様も、イオアンナもいたけれど、私の帰る場所は確かにクリストフォロス様の元だったんだ。


 今はもう、ファウスト様の足でまといにしかならないのに。


「クラリーチェ様」


 可憐な少女の声が私の名を呼ぶ。
 誰かなんて間違える筈がない。さっきまで聞いていたのだから。


「オリアーナ、様」


 美しく巻かれた金髪が月光によく映える。爛々とした紅色の大きな瞳が夜に浮かぶ。
 彼女の口元がゆっくりと弧を描いた。


「私、一度お話したいと思っておりましたの。クラリーチェ様」