しかし、オリアーナ嬢には全くそんな気は起きなかった。


 ありがとう、と微笑むとオリアーナ嬢はほんのり頬を染めて嬉しそうに微笑み返す。
 オリアーナ嬢が僕に色恋の類かどうかは分からないが、好意を持ってくれているのは知っている。けれど、色恋の類だった場合は僕がこの先それに想いを返す事はない。絶対に。


 本当に哀れな令嬢だ。僕と婚約したばっかりに。


 クラリーチェーーエレオノラと出会う前であれば、少しは心動かされたかもしれないが。


「そういえばオリアーナ嬢は本は読むかい?」

「ええ。それなりには……。どうされたのですか?」

「この前ね、昔に読んだ懐かしい本のタイトルを目にしてね……」

「そうなんですか!どんな本なんですか?」


 顔と紅色の瞳を輝かせたオリアーナ嬢に、その本の名前を告げた。


「『可哀想な王妃様』だよ」


 先程の喜色から目で見えるほどに血の気が引いていき、オリアーナ嬢は真っ青になった。
 たかが、この国に古くからあるおとぎ話だ。それにここまで真っ青になる事があるのだろうか。