「クラリーチェお嬢様」

 呼び掛けられて、ハッと我に返る。不自然にならないように頬から手を離して振り返ると、いつの間にか部屋のドア付近に無表情の侍女がいた。

「お嬢様。今日は風が冷たいのであまり長い間窓を開けておられると、お風を召されますよ」
「え、ええ……。そうね……」

 お父様から付けられた私に仕える侍女は、ずっと前からこのビアンカのみだ。彼女はいつも考えている事が全く分からない。

 前世みたいに侍女と仲良くなろうなどとは思わない。けれど、仲を深めようにも深められないという感じだから、今世では丁度いいのかもしれない。

 ただ、いつの間にか現れていつの間にか消えているのはファウスト様とは違う意味で、心臓にとても悪かった。