たまたま聞いてしまった貴族同士の会話。もう何度も聞いていた僕への賛辞の言葉。
 でも気付かなかった方が幸せだったのに、愕然とした。


 それ、賢明な王子が僕じゃなくても良いんじゃないか?


 両親も、貴族も、国民も、“完璧な王子様”を欲している。だけれど、そこに“クリストフォロス”という個の存在の介入する余地はない。


 今まで信じきっていた何かが、全部ボロボロと崩れていくような気がした。


 だから、エレオノラにとても惹かれた。
 僕だけに見せる幼い純粋な微笑みが、“完璧な王子様”だけじゃなくて、僕自身に対しても向けてくれている気がして。
 僕の薄暗くて醜い、僕自身の存在を認めてほしいという承認欲求を満たしてくれて。


 僕の、たった1つの居場所だった。


 ずっと大事に大事にし続けるつもりだった。友人であった彼女の兄に恨まれてしまっても、彼女を手放す事など到底不可能だった。