しげしげと見つめる私の手からキャラメルを取って、包み紙を剥くと褐色の物体が姿を見せた。


「ほら、口を開けて」


 口を開けると、ファウスト様はキャラメルを押し込んでくる。甘い味が口いっぱいに広がった。


「美味しい……」

「でしょ?」


 口を手で抑えながら言うと、ファウスト様は嬉しそうに包み紙を畳んで上着の裏ポケットにしまった。


 前世でも甘いお菓子はあったが、やはり今世の方が種類が豊富だ。でもあまり私が強請(ねだ)らない……というか、強請る立場にいない為かあまりそういうものは食べないのだ。


「……社交界、来たんだってね」

「……ええ。セウェルス伯爵の提案です」

「そうか……。セウェルス伯爵か……」


 ふと、先程まで明るかった彼の碧眼が翳(かげ)る。フィリウス侯爵家で見たファウスト様と、懐かしさを感じるフォティオスお兄様……。


 今のフォティオスお兄様は、フィリウス侯爵家の嫡男だと聞いた。フィリウス侯爵家は第二王子派。フォティオスお兄様だったら、クリストフォロス様であったファウスト様の味方に付きそうなのにーー。