この王国に伝わるとてもとても古いおとぎ話だ。もう歴史の中に埋もれてしまったとある国の、可哀想な王妃様のお話。


 それでもおとぎ話だ。最後は愛した国王様と可愛い子供達に囲まれて、王妃様は幸せになって終わる。


 でもこのお話には本当にあった事も書かれているのだ。
 ファウスト様もそれを知っていたか、何も言わずに私に本を返した。


「今日はね、お土産を持ってきたよ。あまり形に残るものは駄目だけれど、これならいいかと思って。手を出して」


 言われた通りに手を出すと、ファウスト様は上着の裏ポケットから包み紙に覆われた小さな直方体のものをその上に置いた。


「これは……?」

「キャラメルだよ。王都で美味しいって評判だから買ってみたんだ。僕も食べて美味しかったから、クラリーチェにもって」

「キャラメル……」

「知らない?前世の時には勿論無かったし、入ってきたのも少し前だったからかな……。甘いお菓子だよ」