それでも今となってはそんな平穏より、クリストフォロス様の傍にいた方が幸せだと思えた。


 粘ついた嫉妬が私の首を締め上げても、みんなを騙すような真似をしても。


「いいえ。そんな事ありません」

「……っ」

「だって、クリストフォロス様は私をずっと愛して下さっていたでしょう?」


 うん、と頷く彼は、私を抱き締める力を強くした。それでも私を傷付けないように、とても優しく。私に縋るように。


「ずっとずっと、私はクリストフォロス様を愛しておりますから」

「……僕もだよ。僕も、ずっとエレオノラを愛してる」


 息をつまらせたクリストフォロス様に私は言うべきか迷った。目の前に死がある私を忘れて、クリストフォロス様の子供を身ごもったテレンティアをこれから愛してくれと。


 でもそれを私が言うのは、違う気がした。


 私を忘れて違う人を愛せだなんて、クリストフォロス様が向けてくれる愛を踏みにじってしまう気がして、言えなかった。


 それに、今だけは私だけのクリストフォロス様だ。最後くらい独占しても文句は言われないだろう。