「楓さま、準備ができました」
「ありがとう」

「足元にお気をつけください。」
「大丈夫よ」

午後からクリフ様たちは各々の仕事に向かい、私は侍女と護衛の騎士に連れられ宮殿から離れの館に移動した。

竜王の番イコール竜の国の王妃という重圧を感じることがないようにとクリフ様が配慮してくれたのだろうけれど、聞いてしまった以上は考えざるを得ない。
離れの館に滞在しながら、しばらくはこの国の事を知ろうと思う。

離れの館は宮殿のように政務が行われているわけではないのでもともと人の出入りが少ないのだけど、今回私が滞在するということで竜王の許可がない者の立ち入りは禁止とされたらしい。

一方、私の行動は基本的に制限されていない。

もちろん侍女以外に必ず護衛が付くのだけれど、顔見知りになったリクハルドさんやビエラさんがついてくれることになったと聞いてほっとした。緊張せずに済むことに安堵する。



「楓さま、早速バスルームにいかれますか?」
「うん、せっかくだし、使わせてもらおうかな」

離れの案内をしてもらっていたらこちらには大きなバスルームがあると聞いたのだ。
宮殿にはバスルームがなかった。
クリス様の部屋にはシャワールームがあったのだけれど、浴槽はなかった。

「みんなどこでお風呂に入っているの?」
不思議に思ってオリエッタさんに聞くと、
そもそも入浴と言う習慣がないのだと言われて目を丸くしてしまった。

「私たちは魔法で身体を清浄にします。一部を石鹸と水で洗い流すこともありますが、ほとんんど魔法を使います」

「みんなが魔法を使えるってこと?」

「いいえ、魔法を持たないものもおりますが、『魔石』というものを使うと魔法を持たない者でも使うことができるのです。
楓さまのお身体はクリフォード様の魔力で常に清浄にされておりますからご心配なく」

「そうなのね」

私が寝ている間に魔法で清潔を保ってくれていたとは聞いていたけど。
昨夜の晩餐の前に綺麗にメイクとヘアセットがされていたのに、目覚めた時にはすっぴんで髪もさらさらヘアに戻っていたのはクリフ様のおかげだったのか。

私は起きてから洗顔、歯磨きはさせてもらったけど、ここの人たちはそれも魔法で済ませてしまう人たちが多いのかもしれない。