用意したもらったワンピースは昨日のドレスと違ってかなり動きやすいうえにコルセットが必要のない楽なものだった。

寝室を出て行くと、隣の部屋にすでに朝食の準備がされていてクリフ様が窓際のソファーでコーヒーを飲んでいた。

「お待たせいたしました、クリフ様」

クリフ様が立ち上がり「どうぞ」と笑顔で椅子を引いてくれる。
たまに胡散臭いけれど、どうにもやることがスマートなんだよね。
お伽話から出てきた王子様そのもの。
竜王だから王様か。

「まずは食事だけど、護衛は扉の外に侍従と侍女も下がらせたから落ち着いて話ができるよ」

とりあえず食べよう、と言われた。
昨日も思ったんだけど、ここはかなりの高所にあって生態系も違うはずなのに食事は地上と大差ない。目の前のお皿に並ぶお肉はチキンだし、コップに注がれているのは牛乳。パンは小麦とバターのクロワッサン。サラダも新鮮野菜に見える。

やっぱり謎が多すぎる。

「楓?疑問には答えるからお食べ。でないとまた私の気から栄養を入れなければならないよ?」

そう、それ、それ、それ!
昨日フェアリー二人がきゃぴきゃぴと言っていた眠り姫にキスってまさに気を注入していたってことじゃないんだろうか。

わざと上目遣いで見つめると、
「食べないと気を入れるよ」
とため息交じりに言われ背中がヒヤッとする。

「食べます。直ぐに」とナイフとフォークを手にして勢いよく食べ始めた。

「私はそれでもよかったんだけどね」と優雅にコーヒーを口にするクリフ様のことはとりあえず視界からも思考からも外すことにした。

おとぎ話に出てくる素敵な王子様より腹黒なんじゃないだろうか、この竜王はーーー