私は住宅機器メーカー『シャボット』のシステムバス部門にいる。

シャボットはシステムキッチン、バス、洗面台やトイレなどの開発から販売を手掛ける企業である。

ここのショールームの奥にある開発研究棟の一角では一日一組限定完全予約制で現在販売中のシステムバスルームの無料体験入浴ができるのだ。

入浴体験といっても水着着用でご家族での体験も可。
ここではグレードやタイプによって5パターンの浴室を準備していた。

シンプルシリーズは一般的な住宅に使われるものよりもかなり大きめではあるけれど、比較的安価な設定がされているバスルームだ。
その他にはミストサウナ付きバスルームやシャワーブース付きバスルーム。リゾートホテルなどにあるような大型のバスルームやバスルームの壁一面からシャワーが出てくるような設定もできるシャワーに特化した特別なバスルームもある。

体験できるのは1回に付き一か所とさせてもらっているので違うタイプのものを試す場合には申し訳ないが何度も来ていただくことになる。



クリフォード様はここの国の人ではない。
わかっているのはかなりのVIPだということと恐ろしいほどのイケメンだということ。

漆黒の髪に瞳の色はダークブラウン。
きりりとした眉にスッとした鼻筋と顎のライン、意思の強そうな瞳。
彼は護衛と思われるがっちりとした体格の良い男性たちに周りを囲まれていたにも関わらず、身長は負けていないほど高い。素晴らしく気品がある若い男性だ。

初めて来店された時はこの国の政府関係者と一緒にお見えになられたのだけれど、我が国の髪の淋しい小柄なオジサンたちが外国の長身のイケメン男性たちと並んで歩く姿は我が国のコンプレックスを刺激させてしまうような光景で何とも言えない気分になったものだ。

「こちらはクリフォード・D・ギヴォンス様でーーー」
政府関係者の一人が社長以下重役とバスルーム担当の役職たちに紹介していると、クリフォード様の隣に立っていた秘書らしきの男性が
「皆様は”クリフォード様”とお呼びください」
とにこやかに訂正されていた。