私を乗せた車はどんどん都心から離れていく。
クリフォード様に関しての質問には全て”クリフォード様にお聞きください”でかわされてしまうし、本当にどうしよう。

「この車すごいですね。こんなに大きくて高級な車初めて見ました。移動はいつもこんな感じなのですか?」
と違う話を振ってみると、そちらは答えが返ってくる。
「いいえ、いつもではありませんよ。この車を使うのは特別な時だけなのです」

特別な時ってなんだ、という顔をしたら
「楓さまは飛べませんからね」
と笑顔で言われた。

鳥以外はみんな飛べないと思うのだけど。

そんな私に小柄な方の護衛の男性が
「楓さまを無事にお連れするためにこれを準備させていただきました」
と真面目な顔をして言った。

何か疑問は残るけれど、それ以上は答えてもらえそうにない。

でも
「---どうして車内はこんなに広いのにお二人は私の近くに座っているのでしょうか」

私は次の疑問を口にした。

広い車内なのに、このクリフォード様の護衛さんたちは私を挟み込むようにして両サイドにきっちり拳二個分くらいの間隔を開けてお座りになられているのである。

拳二個ってかなり近いですよ。

「今のところ逃げられそうもないので逃げませんから。そんなに近くで見張らなくてもいいのではないかと」

政府関係者、官房長官にまで見送られてしまったのだから、彼の元に行かねば話が終わらないことは渋々ながらも理解した。
だからとりあえず逃げ出す気はないのに。

要するに、
広いのだからもっと離れて座って欲しいってことなんだけど。

「ああ、そうですね。
二人とも、楓さまの仰る通りもう少し距離を取って護衛した方が良い。
あなた達の匂いが楓さまに残ると後で少々まずいことになるかもしれん」

秘書さんは私の言いたいことをわかってくれたらしい。

彼の言葉に両サイドに座る護衛さんたちが「あー」とか「そうでした」と言って今度は私からきっちり一人分の間隔を開けて座り直した。