あ、そういえば思い出したぞ、あの顔、あの声。
どこかで見たことがあると思ったら、毛量寂しいオジサンは我が国の官房長官ではないか。

自国民が意味も分からず外国人に連れ出されようとしているのに助けないとは何たることだ。
次の選挙ではあなたに、というか与党に投票するもんかっ。

ちなみにその時うちの社長はーーーというと、リムジンに乗せられるときに見送りに来た。
社長はクリフォード様がらみでの大きな商談が成立したらしく、ほくほくとしていた。

「秋月さん、勤務のことは心配しないで行ってらっしゃい。特別有給休暇にしとくから。その後のことも心配いらないよ」
私が出て行ったあとは万歳三唱でもしそうな勢いで。

顔色が悪かった社長秘書だけが、私のことを心配してくれていると思ったのだが少し違うらしかった。
「これって人身売買じゃないですよね？法に違反したりしませんよね？会社は大丈夫ですよね？」と政府関係者に確認している声が聞こえてしまったから。

人身売買とは物騒な。
何なの、この国もこの会社も。

訳がわからないままさあさあこちらへとニコニコ笑顔の金髪秘書さんと護衛さんに囲まれ背中を押されてリムジンに押し込まれてしまったのだ。