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「説明してください」



私の暮らすワンルームの部屋が丸ごと全部入ってしまうのではないかという大きさというのは大げさだけど、かなり大きいリムジンに乗せられて私は憮然としていた。

社長室で男性3人に跪かれて”お迎えにきた”などと言われてそのまま半ば強制的に車に乗せられたのだ。

これってどうなのよ、ソフトな感じの誘拐みたい。ソフト拉致?
理由くらい聞いてもいいだろう。

社長室を連れ出されるときに「セクハラだって言ったのが国際問題になってしまったからってお相手の国で裁判になるなんて平等じゃないと思います」と必死に訴えたら、この秘書さんに「何のことですか?」と反対に聞かれたのだ。

どうやら昨日の私が口にしたセクハラ告発が罪に問われたわけではないし、クリフォード様に対する不敬罪ではないとわかったものの、ではこの状況は何なのだ、と問いたい。

しかし、「とにかく、クリフォード様の住む国に私たちと一緒に来て欲しいのです、詳しくはクリフォード様ご本人から直接お話がありますから」の一点張りでこの車内にいる秘書さん、護衛の3人とも何も事情を語ろうとしないのだ。

どうしてそのクリフォード様がここにいないのかと聞けば、昨日のうちに先に国に戻ってしまったのだと。
もう、本当に理解できない。

社長室から連れ出されるときにソファーに座っていた政府関係者らしきおじさんとパチリと目が合った。

どこかで見たことがあるなと思ったけれど、前回の政府関係者の中にはいなかった人で今日ここに集まったメンバーの中では見た目一番毛量のさみしいおじさんだった。
どうか助けて欲しいと目で訴えたのに、そのおじさんにまるっと無視されたのだ。目が合ったよね、いま。

そればかりか
「確か正式に嫁ぐときには馬車で送り出すのがしきたりでしたか?」
「いいえ、馬車ではありません。詳細は改めてお伝えしますがそのようなことにはならないとーー」
と私を助けるどころかオジサンと秘書さんとの間で意味不明の会話がされたのだ。

嫁ぐとか誰と誰のどんな話だ。この非常事態に関係のない話はやめて欲しい。