かちりと音がしてバスルームのドアが開き私の上司であるシェリルさんが顔をのぞかせた。

シェリルさんは28歳、栗色の髪に栗色の瞳の独身美女。
私より背が高く、私よりスタイルがよく、私より仕事が出来る。
全て私より出来のいい憧れの女性だ。

「お客様もうお帰りになってしまったのよ。ちょっと予定より早いんだけど、定例ミーティング始めたいの、いいかしら。」

「え?もうですか?」

「そうなのよ、シンプルシリーズはあまりお気に召してもらえなかったみたい。でも明日ミスト付きのバスルームを試されるようよ。14時からのご予約をして頂いたわ」

明日もまた会えるとシェリルさんはほくほく顔で予約票をぴらぴらとさせた。
今日のお客様はイケメンVIPだったのだ。

「そうですか。お客様もうお帰りになってしまったんですね。じゃあお忘れ物を拾ったんで、急いで連絡してきます」

「忘れ物?」

これです、とハンカチの中の鱗のようなものをシェリルさんに見せた。

「何かしら、これ」と彼女も首をかしげる。

「そうなんです、何でしょう。浴室のミラーに張り付いていたんですが、いい香りがするし、もしかして高級なものとか大切なものかもしれないですよね」

「いい香りがするの?」

嗅がせてとシェリルさんが私のハンカチに顔を寄せくんくんと鼻を動かした。

「何も匂わないけど?」

そんなはずはない。確かにさっきはフローラルのような陽だまりのような何か表現しにくいけれどいい香りがしたのだ。

もう一度鼻を近づけると、やはり心に染み入るようないい香りがする。

「私には秋月さんの使ってる洗濯洗剤の香りしかしないけど」
とまたシェリルさんは首をかしげてしまった。
それ包んでいるハンカチの匂いですねと苦笑した。