エピローグ



中庭の東屋から見る夕日は今日も美しい。

東の空から濃い青が迫って来ており辺りは徐々に夜になってくる。

ブルーモーメントを眺めているとじわじわと幸せを感じる。

今日も黙って隣に寄り添ってくれる夫は何年たっても素敵な男性だ。

そっと額にキスが落ちてきてこの時間の終わりを知らせてくれる。

「楓、そろそろ戻ろうか。名残惜しいが私たちの可愛い子どもたちも寂しがっている頃だろう」
こくんと頷くと今度は唇に軽いキスが落ちてくる。

クリフ様の手が私の腰に回されゆっくりと中庭を出て宮殿の中に戻ると、廊下の向こうから幼児が2人転がるように小走りでこちらに向かって来るのが見える。

「おとうしゃまー、おかあしゃまー」
女の子は手を振りながら走り、女の子より少し小さい男の子は少し遅れて半べそをかいている。

ほらね、とクリフ様は私の顔を見て小さく笑う。

「待たせてごめんね」
私はしゃがみ込み転がるように走ってくる二人を受け止めようとした・・・のだが先にクリフ様が2人を抱き上げていた。

「ふたりとも、楓はお前たちの弟か妹がお腹にいるのだから飛びついてはダメだ」
「はあーい」「ごめんなしゃい、おとうしゃま」

そんなくっつきあう夫と子どもたちに私も思わずぎゅうっと抱き付いた。
「私も混ぜてー!」

「ははは、一番甘えん坊は楓だな」「だなっ」「だなー」

夫と子供に笑われ、気が付けば周りの護衛や侍女、メイドにも笑われている。
いいんだもん。
私は幸せなのだ。

竜王と人間では子どもが授かりにくいと言われていたのに、女神の血が流れているせいか私とクリフ様の間には既に二人の子どもが生まれていて更にお腹にもうひとりいる。

無理やりこの国に連れてこられた頃には想像できなかった今の暮らし。

夫はいつも優しく私を包み込んでくれる。
私もせっせと夫の世話を焼き、かたや王妃としての仕事もこなすし子どもたちの世話もする。

今では竜の国の民の隅々にまで竜王夫妻の仲がいいことが知れ渡っているという。


番に出会った竜は幸せだというが、その番だって竜に負けるとも劣らず幸せなのだ。
自分が幸せだという自信がある。
私はお腹をさすりながらクリフ様にキスをねだった。





2人の間には少し甘く穏やかな香りがして近くにいるものまで幸せを享受することができるのだという。
竜の国の民はみな二人のことが好きで国の自慢だ。
特に王妃様は神鳥を従え女神の血を引いているはずなのに偉ぶったところがこれっぽっちもなく、いつでもニコニコしながら民と接してくれる。

ただたまに天候が荒れるのは竜王夫妻が夫婦喧嘩をして王妃が竜王を寝室から追い出した時らしいーーーそう竜の国の民が知っていることを竜王夫妻は知らないーーー




~fin